ーー人の心に深く刻まれる店舗づくりを目指す社長ですが、松屋は今後どのように成長していくのでしょうか。
松山:「これまでにない食文化・食体験の創造」が私の最終ゴールです。それはつまり、日本ひいては世界中の人々に、今はまだ誰も知らない食の体験を根付かせるということ。
そういう意味で、私がベンチマークしている企業は「マクドナルド」と「スターバックス」です。
ハンバーガーもサードプレイスでのコーヒーも、現代の日本人にとって「そこにあって当たり前」の文化ですよね。でもその意識が根付いたのって、ここ50年以内のことなんです。
マクドナルドの日本1号店が誕生したのは1971年ですし、スターバックスに関しては1996年に日本初上陸を果たしました。たった50年から25年の間で、こんなに分かりやすく新しい食文化というものを根付かせることが可能、という証明に他なりません。
ーーなるほど。食文化におけるニューノーマルを生み出すことは、決して夢物語ではないと。
松山:ただ、こう言うと「飲食業界のトップを目指すなんて、無謀にも程がある」と笑われるかもしれません。けれど私は大真面目にその領域を見据えています。
とはいえ、世界を股にかける彼らの経営戦略をそのままコピーすればいい、というわけではありません。松屋は全国33店舗というまだまだ発展途上にある企業ですし、まずは日本一を目指さないと話にならないですしね。
ーーとはいえ、数多くのチェーンの台頭で、焼肉業界は調べ尽くされた気もします。
松山:確かに、「焼肉なんてもう成熟しきってるじゃん」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、それは大きな間違いです。完成しきった食なんて存在しないと私は思っています。
例えば、グルタミン酸がうま味成分として認知されたのは「味の素」が研究したから。手軽に安くイタリアンが食べられるのは「サイゼリヤ」がそのお手本を示したから。
今は常識となっている食文化だって「元々そこにあったけれど、それをさらに深掘りしたもの」なんです。
だったら松屋には何ができるだろう?そう考えると、私の頭の中で無限大のアイデアが溢れてきて止まりません。
圧倒的コスパの良さとエンタメ性を掛け合わせた「焼肉特急」に、焼肉と和食のマリアージュで生まれた「和匠肉料理 松屋」。家族でワイワイ気軽に楽しめる昔ながらのファミリーレストラン……。焼肉にプラスアルファの付加価値をつけるだけで、焼肉の持つ可能性は無限大に広がっていきます。
食べ放題一辺倒になりがちの焼肉業界を、このように斜めから見ることでどんどん改革していきたいですね。
ーー世界No. 1の企業に向けて、取り組むべきことは多いと言うことですね。
松山:世界を見据え、アクセル全開で進み続けることは間違いないです。ただ、飲食業界ってどうしてもブラックだと思われがちですし、実際に疲弊している業界人も多い。
しかし、私はそういった業界の至らなさも改善していきたいんです。お客様の幸せは、飲食業界で働くスタッフの幸せがないと始まりませんから。
熱い思いで焼肉、ひいては飲食業界に向き合い続ければ、日本の外食産業はもっともっと明るいものになると信じています。
ーー確かに「飲食業界は休みが少なくブラックだ」と言われることも、残念ながら多いです。
松山:ええ。これだけお客様を幸せにしたいと謳っておきながら、その幸せを提供する社員は疲弊する一方だなんて、そんなの悲しすぎるじゃないですか。
私が社長になってから実施した「月8日以上の休日」や「年2回の4連休制度」なども、ただ単に飲食業界をホワイトにしたいという思いだけで生まれたわけではありません。
社員それぞれの大切な人との時間もきちんと確保し、お客様と同じくらい自分の人生も豊かにしてほしい。そう心から願うからこそ、社員の人生が職場の中だけで完結しないよう、取り組みを進めています。
ーー松屋のもう1つの目標「世界一ありがとうがあふれる会社に」も、その1つということでしょうか。
松山:もちろんです。先ほど「職場だけで人生を完結してほしくない」とは言いましたが、家族・友人・恋人の誰よりも同じ時間を共に過ごす人って、実は同じ職場で働く仲間たちなんですよね。
だから、職場での幸福度って、他の何よりも人生の幸せに直結していると思うんです。
なのに自分の不機嫌をそのまま態度に出す人や、アルバイト・社員に1人の人間として向き合わない人ばかりだと、幸せどころか仕事が苦痛で仕方ない。
逆に、1人ひとりに向き合って「ありがとう」と感謝を伝え合う職場だったらどうでしょう。「ありがとう」と言われて嬉しくない人なんていないはずです。
感謝の循環とよく言いますが、お皿を取ってくれたこと、元気に出勤してくれたこと、そんな小さなことでも1つひとつ「ありがとうね!」と伝えられる関係性を築くことで、毎日の仕事が少しでも上向きになる。すると今度は「この幸せな気持ちをお客様にも向けよう」という思考につながっていく。
それが最終的に、「やって良かった」という充実感や、職場での幸せを生み出す。自分の幸せは誰かの幸せと地続きになっていると、そう確信しています。
ーーお客様と社員、どちらも幸せにできる共通項が「ありがとう」の気持ちということですね。
松山:「この人たちと一緒に仕事ができてよかった」「この人たちとだからこそ、素晴らしい体験ができた」。そう思える環境を極めることで、さらなる挑戦へと果敢に取り組めるはず。
松屋が世界No. 1の企業へと成長するために、私はあらゆる「幸せ」を追求していきます。